第2話:「ムーンチャイルド・トリオ」
そんなムーンチャイルド・トリオだが、06年から14年の間に、7枚ものアルバムを残している。
デビュー・アルバムとなる『Moonchild: Songs Without Words』はジョン・ゾーン名義になっているが、本作ではサックスの音は聞こえないことから、作曲とコンダクターに徹しているであろうことが想像できる。
1日ですべて録り終わったらしいので、おそらくジョン・ゾーンが曲のコアの部分を書き、あとは3人のプレイヤーがゾーンの指揮のもと、フリー・インプロヴィゼーションを繰り広げたのだろう。
ジョン・ゾーンはフリー・ジャズ畑のサクソフォン・プレイヤーだが、80年代終わりに、当時最先端の音楽であったグラインドコアに急接近。
ジャズからロック、グラインドコア、サーフ・ミュージックなどあらゆる音楽スタイルを何十秒という曲に凝縮したスタイルで大きな話題となったネイキッド・シティ名義の作品は、Earache Recordsからもリリースされたし、Painkillerではナパーム・デスのドラマー、ミック・ハリスとも共演をしていた。
しかし、90年代中盤以降、グラインドコアが最先端の音楽ではなくなったからであろうか、それともマサダでの活動に興味の比重が移っていったからなのか、エクストリーム・メタルの世界からフェイドアウト。
06年にリリースされたこのムーンチャイルド・トリオによるアルバムは、ジョン・ゾーンが久々にそのエクストリーム・メタル趣味を見せた作品だったのだ。
ムーンチャイルド名義の7枚のアルバムの中で個人的なお気に入りは、07年のサード・アルバム、『Six Litanies for Heliogabalus』だ。
本作ではジョン・ゾーンのサックスも聴けるし、オルガンもフィーチャされていて、何となくネイキッド・シティを彷彿とさせる部分もある。(イクエ・モリもエレクトロニクスで参加。)
ローマ帝国第23代皇帝、マルクス・アウレリウス・アントニヌス・アウグストゥスへの連祷(litany)という形式がとられているが、圧巻は4曲目、「Litany IV」。8分に渡るマイク・パットンのヴォイス・ソロ・パフォーマンスである。
よくまあこんな声が出るものだと驚かされるばかり。
とんでもなく高いスクリーム連発で、よく声を枯らさないものだ。
フェイス・ノー・モア、あるいはソロ名義での『Mondo Cane』で聴かせるような歌い上げとは対極にあるエクストリーム・ヴォイス。パットンのここまで変幻自在なエクストリーム・ヴォーカルがはっきりと聴けるのは、ムーンチャイルドしかないだろう。
ソロ名義では『Adult Themes for Voice』のような声をテーマとした作品も出しているが、これはエフェクトが多用されており、ムーンチャイルドに比べると、その真骨頂がわかりにくい。
12年の6枚目『Templars: In Sacred Blood』も実にかっこいいが、まあ基本的には1枚気に入れば、ムーンチャイルドの作品すべてイケるはず。(言い換えると1枚聞いてダメだったら全部ダメということだが。)
マイク・パットンはネイキッド・シティのライヴにも参加しており、その音源やライヴ模様はインターネット上で見つけることができる。(また、ネイキッド・シティのコンプリート・ボックスには、マイク・パットン・ヴォーカル版の「Leng Tch’e」が入っている。)
ムーンチャイルドが気に入ったら、このあたりを聴いてみるのも良いだろう。
YouTubeには、マイク・パットンの声域がどれだけ広いのかを検証するヴィデオもあり、これも実に興味深いので見てみてほしい。
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